洋服、かばん、靴。ファッションというカテゴリーにおいては、今でも高級ブランドと高品質の証のように思われて根強い人気を誇る イタリア製 「Made in Italy」ブランドたち。だけどそれ、本当にイタリア製? 多くは知らないのではないだろうか、イタリア製 「Made in Italy」ブランドの現実を。
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Made in Italyがイタリア製じゃない?
革製品は特に イタリア製 がモテモテなようだが、イタリア製「Made in Italy」表示のある製品の多くはイタリア製ではなかったりする。というのも分かってチヤホヤしているのだろうか。
多分、分かっていても、イメージとステータス重視でイタリア製と表示のあるものを買っちゃうんだろうな。
イタリア製と謳われているファッションアイテムの多くは、中国やその他の発展途上国で製造されて最終的にイタリアに持ち込まれ販売に至ったものだ。なぜ、そのような品質表示が許されるのか?Made in Italyのトリックを見ていこう。
イタリア製 「Made in Italy」表示の現状
イタリア製と表示されている製品には大きく分けて2種類ある。
2種類のMade in Italy
1.イタリアですべて作られたオーセンティックなイタリア製品。
2.一部をイタリアで作り、一部を国外で作った製品。
最初のケースが皆がイメージするイタリア製なのだと思うが、イタリアの法律では2つ目のケースも正式にイタリア製と認められている。当然、コストの安い二番目のMade in Italy製品が主流になるわけだ。
イタリア製を名乗るためのルール
この場合は、Codice Doganale Comunitario Aggiornato (Regolamento CE 23/04/2008 n° 450 – art. 36 – sull’origine doganale non preferenziale delle merci) の規定に沿う形でイタリア製扱いになる。このルールに乗っ取って、製造の最終工程でイタリアに居てればよいということ。
大部分を諸外国で作り終えたのち、最終的にイタリアにたどり着くことになる製品たちが、Made in Italyの表示をしてOKと認められる規定。
たとえば、全てのパーツが材料ごとイタリア国外のどこからから来ていて、イタリアで組み立てられてもMade in Italy。イタリア製のパーツを使って海外で製造されてもイタリアにもどってきてもMade in Italy=イタリア製認定となる。
それだけでなく、製造の一部をイタリアで行っていればMade in Italy。しかも、この一部にあたる部分が何処なのか?どこからどこまでイタリアならイタリア製といっても良いのか示唆する厳密な規格はないらしい。ということで、代表的なMade in Italyは中国で作ってるMade in Chinaになるだろうと言われている。
私が別途読んだ法律抜粋について記載した記事の内容によると、全行程のうち2工程をイタリアでやっていればイタリア製扱いとなるとのことだったと記憶している。
イタリアの超高級ブランドもコスト削減でイタリア国外へ
プラダ、ヴェルサーチ、アルマーニ、ボッテガヴェネタ、グッチ。どれも高級ブランドだし、購入者はブランドの持つイメージやステータスにお金を払っていることを自覚している。ブランドのファッションアイテム自体に値段に見合った品質を期待しているわけでは無い。しかし、Made in Italyとタグのついたイタリアの超高級ブランドまでコスト削減でイタリア国外に製造が委託されているとは思いもしないのではないか?
しかも、ブランド製品の価格は下がっていない。超高級な値付けのままなのに、製造は以前のイタリアの職人への下請けから、労働力の安い諸外国での製造に切り替えられている。もしくは、イタリア国内製造であっても、中国人が大勢で住み込みの工場で作っているか・・・。
高級メゾンのようなブランドも売れなくなってきていて、経営が苦しいのだろうか?
データをみるとそうでもないらしい。
売り上げ上昇 製造側への待遇は悪化の高級ブランド
トップブランド勢のここ2004年から12年の間で売り上げは上昇し、不況知らずだったと述べられている。35%くらい成長しているとのこと。http://www.linkiesta.it/it/article/2014/09/23/la-moda-italiana-e-sempre-piu-made-in-china/22921/
単純に考えると、上の人が儲けたら、製造を担う人に還元すればいいのに・・・と思うが。儲かると、ますます搾取する方向に、ますますホワイトな職種がブルーをブラックにしていく構図のようだ。
Made in Italy の市場はヨーロッパの外
当然ながら、メイドインイタリーのトップブランド売り上げ好調に貢献しているのは、専らEU圏外の国の民。メインは中国とアメリカとロシア。そして日本。
https://www.mbres.it/sites/default/files/resources/rs_Focus-Moda-2016.pdf 左は2016年のデータ。
外国で製造された「イタリア製」を、またまた外国人が「イタリア製」として有難がって買うのか・・・考えると滑稽。
人件費:中国よりも安いMade in ルーマニアやブルガリアへ
ここ10年くらい言われていることだけど、中国は急成長のおかげで人件費も上昇しているらしい。もちろん、イタリア国内でイタリア人を雇うのとは比較にならないくらい安いのだけど・・・・。
中国は遠い。それで人件費も上がってるとなるとヨーロッパから近い国の方が安いんじゃないか?ということで、実際ヨーロッパの量産ファッションアイテムなどは、ブルガリア製やルーマニア製表示、そしてバングラデシュも多い。以前見たデータが見つからないのだけれど、1カ月の人件費はルーマニアやウクライナのほうが中国よりも安かった。
http://www.lindipendenzanuova.com/e-in-europa-ma-la-romania-ha-il-costo-del-lavoro-della-cina/
↑上記は中国とルーマニアの人件費が同レベルの安さであることに注目した記事。
年間の労働者の収入比較データがあった。バングラデシュが中国の半額ほどとかなり安い。労働力の豊富さは断然中国に軍配あがって、総合的には中国での生産が今でも優位なのだと思うが。
Wage Overheads in Emerging Asia | |||
Country | Avg. minimum annual salary
(Worker, USD) | Avg. mandatory welfare
(% against salary) | Total Labor Cost
(Intl. dollar) |
Bangladesh | 798 | n/a | 798 |
Cambodia | 672 | n/a | 672 |
China | 1,500 | 50 | 2,250 |
India | 857 | 10 | 943 |
Indonesia | 1,027 |
http://www.truenumbers.it/costo-del-lavoro/
上記リンクは2018年のデータ。イタリアは大体1時間あたりの人件費が27.5EUR(2018年現在)。27.5Eurは何気にUKより高い。これは税金なども含まれていて、労働者が受け取る対価ではない。イタリアのショップ販売員は例えば手取り7ユーロ/時間くらいのものだ。
対するルーマニアは込み込みで5.5。ブルガリアは4.5。労働者一人が受け取る月給は数千円レベルか・・・。ブルガリアやルーマニアからイタリアに移住してくる人も多いのも納得だ。貧しい国なのだ。
こうやって、単純に人件費の安い国への生産を移すだけではなく、各国の工場では16歳未満の子供を毎日10時間(またはそれ以上)働かせて先進国で販売する服を作らせている。
これは、ラグジュアリーブランドのみの問題ではない。ファッション業界全体をフィーチャーしたドキュメンタリーでよく取り上げられている通り。ZARAやユニクロでかつて下請けの工場の劣悪な労働環境に関して是正勧告が出たとおりだ。
イタリア生産の服や革製品=実質は中国(人)製
もうずいぶん前から有名な話だが、イタリアのプラダなどの高級ブランドの下請けや直営工場での生産は、全面的に中国人が引き受けているという事のようだ。確かにMade in Italy。Made by Chinese in Italy 。
また、今やイタリア国内の革製品、毛織物産業のビジネスオーナーは50%以上が中国人。中国から移住してきた1世代目も多くいるが、すでに2世以降の世代で完璧にイタリア語を話す中身イタリア人な中国人オーナーも多い。確かに、イタリア製。中国人が経営して、かれらが雇う従業員にはイタリア人もいる。
以前、2007年のREPORTというイタリアの番組で、400ユーロ以上するカバンを、不法労働の中国人を雇って下請けに30ユーロで作らせている様子を暴露されたPrada。ほかにも同番組では、Versaceやモンクレールなどのラグジュアリーブランド生産の裏側に潜入したMade in Italyの現状暴露シリーズを展開している。
400ユーロ~1000ユーロほどで売られるナイロンのバッグのカバンを作るのに、下請けが受け取る金額は30ユーロ。これには材料費も含まれているらしいというから、実質は20ユーロくらいか。そこで雇われる職人の受け取る賃金なんてひどいものだろう・・・。
「嫌ならいいよ、中国人がやるから。」
イタリア人の下請け工場経営者や職人は、そんな風にブランド側から言われて、ひどい賃金体制を受け入れるか、中国人進出に任せる事になるかの2択。結局は中国人が働く確率は高くなる。(中国からの移民にとっては、自国の給与よりはイタリアの方が稼げるからね。)
他ブランドにおいても、イタリア人職人でも奴隷同然のような労働条件で働いている人たちが多くいるようだ。ただ、この条件ではこの仕事に就きたいと思うイタリア人は少ない。
Report で放映された内容
番組ではプラダ直営の工場で滞在許可証もない中国人が大量に働いている場面が映し出されていた。これはナポリの工場だったが、イタリアの毛織物産業で中国人が多くて有名といえばトスカーナ。
中国人が支えるイタリアのMade in Italy
イタリアには全土にわたって中国人による革製品や縫製工場があるが、特に多いのがトスカーナだ。
トスカーナにある街、プラート。繊維博物館があるくらい、昔から毛織物工業で有名な街・・・だった。がここに来ると、中国かと思うほど中国人の割合が高い。今や、多くの中国人がかつての毛織物工場で働く街として有名だ。
プラートで働く多くの中国人がハイブランドの下請けをやっているといわれている。
従業員に好待遇 稀有なブランド: ブルネロクチネリ
奴隷生産性の高さで利益を増そうとするファッション業界の流れ。中国人によるイタリア製が主流となるイタリアファッション業界の現状。
そんな中で、まともな経営哲学を持っている企業として、とても有名なブランドがある。カシミヤブランドの王様と呼ばれる Brunello Cucinelli ブルネロクチネリだ。
暴露番組Reportの中でも、イタリア人の従業員にきちんとした給与を払っているブランドとして取り上げられていたが、それは宣伝のみではなく経営方針としてあるようだ。
ブルネロクチネリ カンファレンス「イタリア不在のMade in Italy」
「(次の世代にブランドを残していきたいならば)若者が他の職業ではなく、裁縫職人になりたいと思うような環境にしていかなくてはならない。つまりは月給で3000ユーロ稼げる職にしていかないと行けない。」
ブルネッロクチネッリが対談で伝えている。
イタリアで月給3000ユーロ(およそ40万円)はかなりの好待遇だ。イタリアは大卒で月に850ユーロ程度からスタートするというセリフを、2015年のミラノ万博コンパニオン派遣会社が説明会で使用していた。実際は、1100ユーロくらいは普通に稼げるけれど、大体フルタイムの契約付の仕事で1000~1700ユーロ=日本円にして14-21万円程度。生産系の仕事で3000EUROはかなりの高給取りレベルだ。
待遇をよくしなければ業界に人が来ない。当たり前のことだけれど、それをやらずに奴隷制を突き通そうとすることが多いのが現状。そんな中で、ブルネッロクチネッリの存在は稀有。そして素晴らしく戦略的なマーケティングだ。
一日で4000人の求職者から応募が
事実、BrunelloCucinelliが求人情報を載せたところ、一日で4000通の履歴書が届いたそうだ・・・。
Cucinelli e l’offerta di lavoro ai giovani: “4mila curriculum in un giorno”
これは2017年の話。Reportの暴露番組が放映されてから10年近く経過しているので、Brunello=待遇が良いは単なるテレビの宣伝ではなく事実なのだろうことが伺える。
また、カシミアの取れるモンゴルでも感謝される存在らしい。
そのMade in Italy 本当にイタリア製?
クチネリのようなブランドがハイブランドに増えてくれればイタリア製も本来のイタリア製を存続させられるかもしれない。だが、難しいだろうな。Made in ItalyがMade in Italyでなくなったのも、「買う方の行動」「売る方の行動」の両方に原因があるのだから。
ブランドネームに目がくらむ消費者。その高い値段が好きなくせに一円でも安く買おうとする消費者。気になるのは品質じゃなくてブランドの名前。そんな消費者が増え続ける。そして、その愚かな消費者をカモにする人間も減ることはないだろう。
ちなみに、このエセmade in Italy。ファッショングッズの話だけじゃないからね・・・・・・。